糖尿病ソリューション
糖尿病は人生の”トラブル”です。正しい知識で問題解決(ソリューション)を。一つの病名のもとで、各自別々の問題を抱えているのです。
ブタはなぜ糖尿病にならないのか?地中海ダイエットのすすめ
平成19年度京都府糖尿病週間に行われた講演のアブストラクトです。
日時 11月23日 場所 京大会館101号室
司会 京都大学大学院人間・環境学研究科教授 津田謹輔先生
演題「ブタはなぜ糖尿病にならないのか?地中海ダイエットのすすめ」
日本糖尿病協会インターネット委員 河合勝幸
糖尿病になりやすい環境の中で、どうして地域や民族によって罹病率のばらつきが生じるのかを研究した面白い論文があります。
Why don't pigs get diabetes?(ブタはなぜ糖尿病にならないのか?)
カナダのトップ医学誌CMAJに載ったものですが、この中で2人の論者は「倹約遺伝子説」のみでは十分に説明できないとしています。倹約遺伝子は末裔まで不変のままではなく、環境によって取捨選択があるのでは、ということです。ヨーロッパ人はインスリン分泌が強いので糖尿病になりにくいとされていますが、これも17世紀以降の食料の不足が起きなかったことも無視できません。つまりヨーロッパはすでに糖尿病になりやすい環境(食の西欧化)を2-3百年体験しています。
ヨーロッパの2型は生殖年齢が終った45歳以上に多いのに対し、世界の発展途上国の2型罹病率は20-44歳の生殖年齢に高くみられます。もし2型糖尿病の人の出産率が10%低いとすると、現在成人の30-40%もが2型糖尿病になっているナウルの国民やアボリジニの人達は12-25世代後には5-10%の先進国並の罹病率になる計算だそうです。つまり、生殖年齢期の2型は男性のED、女性の異常妊娠、月経不順等で出生率が下がる。若死のため子育てが困難等があるからです。
その一例としてアメリカ、ジョージア州の沖合いの島Ossabawに生息しているオッサバウ豚の数奇な歴史に触れています。この豚はスペインのイベリコ種の子孫で、400年以上前に野生化して生きのびてきました。木の根、ドングリ、海の貝類、海亀の卵など、あらゆるものを食べます。また、体は島しょ化のせいで小さいのですが、飢えに備えて腹部に脂肪を貯えやすくなっています。
野生では太っていても健康なのに、食肉用の豚と一緒に飼育されるとみるみる太ってメタボや2型糖尿病、心筋梗塞になってしまうという、まさに現代人のコピーのような豚です。家畜の豚は糖尿病にはなりません。その遺伝は淘汰されたのでしょうか?私はオッサバウ豚が正常で、飼料があまりにも不自然だと考えています。私達は遺伝子が対応できないトランス型脂肪酸や大量の果糖・ブドウ糖液にさらされているのではないでしょうか。
今更、縄文人の食生活に戻れるわけもないので、思い切って健康なイベリコ豚の古里、地中海型の食事に注目したいと考えています。
アンダルシア(スペイン)を旅していると、天井が見えない程生ハムがぶら下がっているバール(Bar)に出合います。
イベリア半島の野生に近いイベリコ種の豚は、秋にはコルク樫の森に放牧されてドングリをたらふく食べるので、木の実のヘルシーなオメガ-3脂肪酸やオレイン酸(55%以上)の多い脂肪になります。この脂はとても溶けやすいので生ハムの下に油受けの傘が刺してあるのに気がつくでしょう。
ところで、三大栄養素のひとつ炭水化物は消化吸収されると最終的にはブドウ糖になります。タンパク質も植物性、動物性にかかわらず、アミノ酸そのものは完全に同じものです。
ところが脂肪だけは食べたものがそのまま体の組成になるのです。だからイベリコ生ハムだけでなく、コレステロールを下げる(!)鶏卵が作れるのですよ。多価不飽和脂肪酸の多い餌を与えればいいのですから。
いま、ローファット食が注目されていますが、現在の日本型食生活は脂肪がカロリー比25%という理想的なローファット食なんです。ですからこれ以上油脂をやみくもに減らすのではなく、今まで通りの食生活の中でよりヘルシーな油に切り換えていくのがお勧めです。
WHO が理想的な食生活とする地中海型食生活は1960年代のギリシャがモデルなんですが、米国型の肉の飽和脂肪酸や加工食品のトランス型脂肪酸ではなく、ナチュラルなオリーブオイル、魚介類、ナッツ類等の健康的な油脂が特長です。これに、少ない肉、豊富な魚・野菜・フルーツとパスタや田舎パンでまとめればヘルシーな長寿食です。1921年のインスリンの発見以前は糖尿病の診断はデス・センテンス(死の宣告)でした。そこでヨーロッパの上流階級の人達は、糖尿病になると地中海沿岸に移ったそうです。地中海のヘルシーな油脂とおいしいワインで、あまり血糖値を上げないようにしてカロリーを取れるからですね。スパゲッティや豊富な野菜も血糖を上げにくい、すなわちグリセミック指数の低い食品の代表です。
英国糖尿病者協会の創立者で、糖尿病治療に多大の貢献をしたサー・ロバート・ローレンスも、ご自身が1型を発症した時にイタリアのフィレンツェに移り住んだ位です。
オリーブオイルがインスリンの効き目をよくすることは知られていますが、生体膜そのものがリン脂質(脂肪)で出来ていますから、その成分の脂肪酸の良否は大きな役目を担っています。また、オレイン酸やリノール酸がコレステロール値を下げることもよく知られていますが、その仕組みはあまり語られませんね。
実はリノール酸やアラキドン酸、エイコサペンタエン酸などは脂肪代謝のコントロールを行うPPAR(ピーパー)のリガンド(引き金)でもあるのです。つまり、善玉脂肪酸にはホルモン様作用があります。PPARと言えばインスリン抵抗性改善薬の機序として必ず出てくる名前ですね。
このように、脂肪は量だけでなく質の管理も大切だと思うのです。特に糖尿病のある方は、まず肉(特に牛肉)を減らしてください。家畜の飼料がリノール酸の多いトウモロコシだから、肉をメインにすると体がリノール酸に染まってしまいます。糖尿病は目に見えない炎症の病気ですが、リノール酸は炎症を促進します。安全なオリーブオイル、キャノーラオイルを控え目に使って野菜や豆類をたっぷり取ってください。そうすれば、味つけは和風でも中身は立派な「地中海」ですよ。
[河合勝幸 2007/11/23]
